退屈から抜け出すための映画

好きな映画を中心に紹介していくブログ。超不定期更新。

映画『女王陛下のお気に入り』を観ました。

映画『女王陛下のお気に入り』
こんにちは。突然ですが、これまで(というか最近)このブログは”だ・である調”の文体で書いていましたが、なんだかしっくりこないなぁと思い始め、今後は”です・ます調”で書くことにしました(どうでもいいよ!って感じでしょうが)。内容も主に映画の紹介とそれに関連するあれこれや、思ったことなどを書いていくようにしたいと思っています。でもまぁ、あまり決めつけすぎず(ルールに縛られすぎると書けなくなってしまうので)自由に、日記も兼ねて更新していきたいと思っています。

さて、昨日現在公開中の映画『女王陛下のお気に入り』を観てきました。朝イチの日比谷シャンテの回で観てきたのですが、まぁ行きの電車が通勤ラッシュに人身事故も重なったようでえげつない混みようで泣きそうになりました。どんどん押されて中の方に流れ込み「これは出る時大変だぞ」と思っていたら、案の定降車する時私の周りは壁のように誰も動いてくれず、「すいません、降ります」と言葉に出してやっとめんどくさそうに道(というより隙間)を開けてくれました。以前、私ではないのですが、同じように降りたいのに入ってくる人に押されて、結局電車から降りられなかった女の子を見たことがあって、満員電車は本当にどうにかならないものかと悲しい気分になったことを思い出しました。満員電車って昔から大勢の人が困っている事だと思うのですが、いつになっても解決される日が来ないですね・・・。

電車自体ちょっと遅延もしていたので、映画に間に合わなかったらどうしようかとヒヤヒヤものでしたが、なんとかギリギリ間に合いました。良かった。そして肝心の映画『女王陛下のお気に入り』ですが、めちゃくちゃ面白かったです。監督は『籠の中の乙女』や『ロブスター 』、『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』のヨルゴス・ランティモス。この監督の作品は”不条理映画”だと言われることが多く、非常に現実離れしていて観ているもの倫理観をぶちのめし、「そんなことがあっていいのか〜!」となんとも言えない嫌〜な気分にさせる作風を特徴としています。

 

そんなこともあって超期待していた本作。今回は実際にあった話を元にしているのでそこまで驚きの設定はありませんが、映像も美しく、ドキドキしながら楽しめて、複雑な人間模様や階級社会に色々と考えさせられました。ずっと観ていたいくらい面白かったです。衣装、美術(屋敷の撮影はセットではなくエリザベス1世が子供時代を過ごした館のハット・フィールドハウスで行われたそうです)、そして女優たちの美しさ・・・つい思い出してうっとりしてしまいます。

ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)と女優賞、ゴールデン・グローブ賞で主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞するなど数多くの賞も獲得しましたが、先日(日本時間で2月25日)行われたアカデミー賞では9部門(作品賞・監督賞・主演女優賞・助演女優賞脚本賞編集賞・衣装デザイン賞・美術賞・撮影賞)で10ノミネートし、見事主演のアン女王を演じたリビア・コールマンが主演女優賞を獲得しました(グレン・グローズが有力候補だったのですが)。エマ・ストーンレイチェル・ワイズも2人揃って助演女優賞にノミネートされましたが、映画を観た感じでは3人とも主演と言ってもおかしくないくらい(映っている時間はエマ・ストーンが1番長いのでは?)の存在感でした。アカデミー賞の授賞式でのオリビア・コールマンのスピーチは、今年のアカデミー賞の中でも1番面白かったとされ話題になっています。

 エマ・ストーンの感激ぶりがまさに映画の中の1シーンのようです。それと、オリビア・コールマンが映画の中の印象と全然違う!とても若々しい!この動画の翻訳はアカデミー賞で「1番笑いを取ったスピーチ」はオリヴィア・コールマン【スピーチ全訳】 - フロントロウで読むことが出来ます。また、wowow加入してなくてアカデミー賞観れなかったよーという方で、BSが観られる方は3月10日(日)にNHKBSプレミアムシネマで第91回アカデミー賞授賞式の総集編が放送されるので必見です。私もwowowに加入する金銭的余裕がないのでBSで観ます!

本当に女優陣の演技は圧巻の素晴らしさだったな〜と思います。それも全員違うタイプだったのが良かった。私個人的にはもともと好きっていうのもありますが、徐々に本性を現すエマ・ストーンを観ているのが楽しすぎました。特に本で自分の頭をガンガン殴りつけるところ(これまた嫌な音がするんです)や鼻で笑うあのシーンはたまりません。それと『ロブスター 』にも出ていたレイチェル・ワイズが現在48歳で実は3人の中で一番年上と知ったことが1番の衝撃だったかもしれません。この人見た目若すぎやしませんか。せいぜい30代半ばくらいと思っていました。逆に男性たちは同じような化粧やカツラを被っていたこともあって誰が誰だかよくわからなくなってしまいました・・・。

 

この映画のあらすじをざっくり説明すると、舞台は18世紀のイングランドルイ14世が統治するフランスと戦争の真っ只中。アン女王(オリビア・コールマン)は政治に無関心で教養もなく、幼なじみの女官長であるレディ・サラ(レイチェル・ワイズ)に影で操られているような状態でした。そこにレディ・サラと従妹だというアビゲイルエマ・ストーン)が召使として雇って欲しいとやってきます。アビゲイルも元々は上流階級の人間でしたが、父親が賭け事に負けたせいで上流階級から転げ落ち生活に困っていました。召使として雇ってもらったものの、1番下っ端のアビゲイルは周囲の皆んなからいじめを受けてしまいます。しかし、元々教養もあり頭もいいアビゲイルはこっそり王女の部屋に忍び込み、痛風で体を動かせない状態の王女の足に自ら摘んできた薬草を塗ってあげます。それを見たレディ・サラは「召使のくせに余計なことしやがって」と、アビゲイルにお仕置きを与えるのですが、アン女王の足の痛みが治まったのでアビゲイルを侍女(貴族または上流階級の婦人に個人的に仕えて雑用や身の回りの世話をする女性)に昇格してあげます。ある時、レディ・サラとアン女王の友情以上の関係を目撃してしまったアビゲイルは、自分もアン女王に気に入られるためにあの手この手を使ってアン王女に取り入りました。すっかりアン女王のお気に入りの座を手に入れたアビゲイルを気に入らないレディ・サラは、アビゲイルを再び召使に戻そうとするのですが・・・。といった女3人の三角関係を中心とした物語になっています。

イギリスの女王といえばケイト・ブランシェットが『エリザベス』で演じたエリザベス1世や、ヴィクトリア女王、メアリー女王が有名ですが、このアン女王はイギリスの学校の歴史の授業でもほとんど習わないそうで、あまり知られていない存在のようです。アン女王は17匹のうさぎを飼っていたのですが、この17という数字は彼女が自分の子供を亡くした人数なんですね。虚弱体質で、痛風以外にも様々な病気を抱えていたようなのですが、更に容姿のコンプレックスもあり心身共に弱かった人なのだと思います。映画の中ではそうでもないのですが、実際にはかなりの肥満体で、亡くなった時の棺のサイズが縦横同じ(つまり正方形)だったそうです。非常に子供っぽくわがままで、議会でも堂々と人前で発言することが出来ない人なのですが、明らかに向いてないのに女王という立場を背負わされてその役割を果たさなければならなかったという事は本当に可哀想だったと感じます。

アン女王が即位した頃、スペイン継承戦争というスペインの王位を巡りヨーロッパ諸国を巻き込んで行われた戦争が本格化しました。しかし戦争中だというのに、この映画の中では戦場のシーンが挟まれることがありません。アン女王は自分の暮らす宮殿の中から外に出ることはなく、まるで外の世界を知らないからです。戦争が起こっているのかどうかもよく分かっていない状態です。レディ・サラはそんなアン女王を操って自分の理想の政治を動かしていますが、フランスとの講和条約を徹底的に拒否し、敵を「徹底的に潰す」まで戦争をやめようとしません(ちなみにレディ・サラは英国元首相のウィンストン・チャーチルや故ダイアナ元英国妃の先祖でもあります)。そのための費用は税金を上げて民衆から奪い取ることで解決すると考えていて、民衆の生活が苦しくなったとしてもお構いなしの姿勢が恐ろしいです。この時点では観てる方は完全に「レディ・サラめ、自分たちは贅沢三昧のくせにわたしたち庶民から搾取しやがって・・・。」という気持ちにさせられているので、アビゲイルの登場はむしろ救世主のように思え、女王がアビゲイルの方を気にいるようになるにつれてむしろいい気分がしてくるんですよね。彼女のしたたかさに気が付きつつも。でも話が進むにつれてどんどん複雑になっていって、共感できる登場人物が誰もいなくなってしまう。言ってしまえばまともな人間なんて誰1人いない。だからと言ってみんな悪人なのかといえばそれぞれのいい面も見えてくるわけで・・・。厳しいことも言うけど正直で嘘はつかないサラか、褒めまくっていい気分にさせてくれる(それがたとえ上辺だけだとしても)アビゲイルかどちらを取るべきかという究極の選択にアン女王が出した答えもなかなか興味深く考えさせられました。

 

アン女王に取り入って少しづつ階級を登りつめ、権力を手にしていくアビゲイルの姿を観ていたらやはり1950年公開のハリウッド映画『イヴの総て』を思い出さずにはいられません。田舎から出てきた女優志望のイヴは大ファンである大女優マーゴ(ベティ・ベイヴィス)の付き人になり、マーゴや周囲の業界人たちに取り入っていくのですが、最終的にはマーゴを踏み台にしてスターにのし上がっていくというお話の映画です。恐ろしいけど面白い。イヴとアビゲイルの姿は非常に重なって見えます。ちなみに町山智浩さんはラジオで「イギリス版百合版大奥だ!」とおっしゃっていました。(が、私は大奥を観ていないのでよくわかりません。)

All About Eve Modern Trailer - YouTube

貴族たちの描き方もだいぶエグくておかしかったです。金持ちというのは遊び方がよくわからないのでしょうか、下品で野蛮な遊びをして大いに楽しんでいるのですが、その時の彼らの表情が欲をむき出しにしていていやらしくて超こわい。それに比べると召使いたちが仕事をしている様子なんかは慎ましくて非常に美しい。とはいえ、そんな彼らの中にも上下関係が存在しているのですが・・・。たとえ地位が低くそれまで謙虚だった者でも、権力を手に入れたり地位が上がったりすると、自分より下の立場の者に対して威張ったり偉そうにするものだという事が描かれますが、現代社会でも全く変わらないなぁとしみじみ感じます。そう、この映画は18世紀初頭が舞台だというのに人間の本質がまるで現代と変わっていないことに気づかされるのです。書き忘れていましたが、一応この映画のジャンルは「コメディ」なので、こんな貴族たちの行いっておかしいでしょという(ブラックな)笑いを込めて描いています。そしてそれがそのまま現代の私たちにも返ってくるというなんとも皮肉な構造になっていることに気づいてゾワッとしました。

撮影方法も面白くて、時々魚眼レンズで覗き込んだようなシーンが登場します。それがなんとも奇妙な映像になってこの映画の歪んだ世界観と見事にマッチしていました。魚眼レンズを使った他の作品を恐らくわたしは見たことがないのですが、下手に使うとわざとらしくなりそうなものの、違和感なく溶け込んで見えたのはこの監督の作品だからこそなのだろうなぁと感じます。それから照明はほぼ使用しておらず、自然光かロウソクや暖炉の火の明かりを使用しているのも非常に美しかったです。

映画『女王陛下のお気に入り』

そして最後に、非常に気になったのがダンスのシーン。舞踏会でのレイチェル・ワイズと男(は誰だかよくわからなかった)のダンス、アン女王の部屋でのアン女王とアビゲイルのダンスシーンがあるのですが、普通貴族のダンスって手を取り合って優雅に踊っている姿を想像すると思うんですけど、この映画の中のダンスは舞踏会で踊るようなダンスとは全然違うジャンルなんです。創作ダンスのようなとにかく奇妙なダンスで、町山智浩さんがラジオで「あれはマドンナの「ヴォーグ」のダンスをやっている」というのを聞いて「なるほど!」と思いました。いわゆるヴォーギングとして知られているダンスで、言葉で説明するのが非常に難しいのですがファッション雑誌「ヴォーグ」のモデルのポーズが由来で、モデルたちのキメポーズやウォーキングを取り入れてダンスにした感じといえばいいですかね。実際に動画を観た方がわかりやすいと思うのでyoutubeを貼っておきます。

Madonna - Vogue (Official Music Video) - YouTube

最近では今年公開されたサスペリア』の劇中のダンスもちょっとヴォーギングっぽかったですし、2018年公開のギャスパー・ノエ監督『Climax』でもヴォーギングを取り入れたダンスを披露しています。この『Climax』超観たいのですが日本では劇場未公開で、ディスクもまだ出ていないので観れていません・・・のでyoutubeでひたすら観ているのですが、鳥肌が立つほどダンスシーンがかっこいいです。しかもみんなで振り付けをぴったり合わせるようなダンスではなくそれぞれバラバラな振り付けなんですけど、でもそれが1人1人の個性を感じられてすごくいいし、決して特定の人が傑出しているわけでもないところもいい。そして何よりもすごく楽しそうなのが素晴らしい。

Suspiria 2018 - YouTube

Climax - Intro Scene (Supernature - Cerrone) - YouTube

女王陛下のお気に入り』は実際の史実を基にした話なのに、なんでヴォーギング取り入れてるねんと思うかもしれませんが、これもヨルゴス流のギャグなんですね。実は衣装もデニム生地を採用していたりして現代的な要素が取り入れられています。

とまぁ、なんだかダラダラととりとめのない長文を垂れ流してしまいましたが、女王陛下のお気に入り』は人の心や感覚をあらゆる方向から刺激する超面白い作品なのでとてもオススメです。あ、ちなみにパンフレットで紹介されていた女王陛下の御用達というビニール傘がシンプルながらも可愛い。深いドーム型なので普通のビニール傘より雨から守ってくれそうなのもいいですね。くぅ〜欲しいなぁ。

※使用した映画本編画像は全てIMDbから拝借させていただきました。