退屈から抜け出すための映画

観た映画の感想をだらだらと書いているだけのブログです。

映画「華氏119」(ネタバレあり)

「華氏119」

映画「華氏119」
(C)2018 Midwestern Films LLC 2018

作品データ

公開:2018年/アメリカ
原題:Fahrenheit 11/9
監督・脚本・出演:マイケル・ムーア
製作:マイケル・ムーア、カール・ディール、メーガン・オハラ
製作総指揮:バーゼル・ハムダン、ティア・レッシン
撮影:ジェイミー・ロイ、ルーク・ガイスビューラー
編集:ダグ・エイベル、パブロ・プロエンザ

概要・あらすじ

16年の大統領選の最中からトランプ当選の警告を発していたムーア監督は、トランプ大統領を取材するうちに、どんなスキャンダルが起こってもトランプが大統領の座から降りなくてもすむように仕組まれているということを確信し、トランプ大統領を「悪の天才」と称する。今作では、トランプ・ファミリー崩壊につながるというネタも暴露しながら、トランプを当選させたアメリカ社会にメスを入れる。(映画.comより抜粋)

 

感想

こんにちは。久しぶりの更新になってしまいました。時間が過ぎるのってなんて早いんだろう。何もせずに時間ばかり過ぎていく・・・。

さて、地元の映画館で「華氏119」を鑑賞してきました。日本でもハリセンボンの春菜さんんおかげで(?)有名なマイケル・ムーア監督。でも、実際に彼の映画を観たことがあるっていう日本人はどれくらいいるんだろう。平日昼間に観に行ったからか席は結構空いていました。

私は一応ツイッターやインスタグラムのアカウントは持っているものの、普段あんまりSNSを見ないので(だから投稿も怠りがち・・・)本当に世の中の情報に疎い。知りたい気持ちはあるんだけど、今の世の中フェイクニュースも溢れていて何が真実なのかわからないし、余計などうでもいい情報までバンバン目に入ってきたりする。誘惑も多い。そうすると、情報の波に翻弄されるばかりで、ただただ時間が消費されるだけで何も得られず無駄骨を折ることになりがち。そんな私が主に情報源にしているのは、本とBS朝日の『町山智浩のアメリカの今を知るテレビ』と映画である。特に映画は普段ニュースでも取り上げられないようなあらゆる世界の出来事を映像で見て知ることができる。考えるきっかけを与えてくれるこのようなドキュメンタリー映画は、私の目を覚まさせてくれる最も有効な手段としてとてもありがたい存在。

まず「華氏119」というタイトルについて説明をすると、2016年の大統領選でドナルド・トランプが勝利宣言した11月9日という日付と、マイケル・ムーアが過去に監督しブッシュ政権を批判したドキュメンタリー『華氏 911』を踏まえてつけられたもの。さらに引用元をたどれば、レイ・ブラッドベリのSF小説『華氏451度』にたどり着く。華氏451度とは、紙が自然発火する温度を示している。本が忌むべき禁制品となった世界で、昇火士たちが本を所持している者の家に押しかけ、次々と本を燃やしていく話だ。本を隠し持つことは犯罪とみなされる。書物=知識であるから、支配者層の者たちが庶民から知を奪おうとしていることを意味する。頭が空っぽでいてくれれば、権力者やお偉いさんたちがしている悪行に気がつかずに従順でいてくれるからだ。この1953年に発表された小説の中の世界と、今のこの現実がだんだんと近づいてきていることに危機感を感じ、マイケル・ムーアはこのタイトルをつけたのだろうと思う。『華氏451度』は1966年にフランソワ・トリュフォー監督により『華氏451』というタイトルで映画化もされている。

 

 

この映画はドナルド・トランプ大統領がなぜ誕生してしまったのかということに焦点をおき、その周辺にある様々な問題に関しても描かれる。情報量多めでボリューム感たっぷりだが、テンポがよくて2時間ちょっとの時間があっという間に感じられた。ポップで分かりやすい表現と鋭い視点から斬りこむ辛辣さ。(ちょっと悪質な編集もあるけども)果たしてこれはアメリカだけの問題といえるのか。明日は我が身なんじゃないか。と考えさせられるような普遍的で非常に考えさせられる内容だった。

この映画の中で衝撃を受けたところはもうほぼ全部なのだけど、例えば、ミシガン州フリントの水道水汚染問題については特に衝撃的だった。2010年、トランプと旧知の仲である共和党のリック・スナイダー知事は就任後公共事業を民営化。フリントの水源をヒューロン湖から汚染されたフリント川に変更させた影響で、蛇口からは茶色い水が流れ、市民に鉛中毒などの健康被害が広がった。子供たちの鉛の血中濃度の数値は異常値が確認されているというのに、それを当局が隠蔽&改ざんを指示!本当にひどすぎる。さらに頼みの綱である当時の大統領オバマさんも現地に訪れたものの何か対策をしてくれるわけじゃなく、「もう水は安全だから大丈夫!」と言って帰っていっただけ。しかも「喉が渇いたな〜水をくれるかな」という小芝居をしてコップに入った水を持ってこさせるが、飲まずにちょっと唇を当てただけ。これにはさすがにがっかりだし、だったら飲みふりなんてしないでいてくれた方がまだよかった。さらにこの後が衝撃的すぎてもう何が何だかわからない。なんと、民間人が普通に生活するなか住人たちは何も知らされることなく、国防総省がフリントを陸軍の演習場として利用。頭上には戦闘機が飛び、銃弾が飛び交い、目と鼻の先にある建物が爆破する光景が映し出される。自分の住んでいる地域で突然こんなことが起こるなんて本当に信じられないと思う。政治家は自分たちと自分にとって利益になる人以外はどうでもいい存在だと考えているんだろうか。思わず「世の中って・・・」と遠くを見つめてしまう。しかし、このフリントに関する件ではムーアがあるパフォーマンスをすることによって胸がすーっとした。犯罪ギリギリだけど(笑)ちなみに、ムーアはフリントの生まれ。地元ということで人一倍愛着も大きいのだろう。

ムーアはトランプの毎度のデタラメな嘘・差別発言や、政治家や企業のトップらの利己主義、そして大手テレビ局のキャスターの性犯罪率の高さも晒しあげる。世間一般では立派だと言われる(というか言われていた)ような立場の人間が腐敗しきっているという現状に、絶望を隠せない。権力を手中に入れた人間はマリオのスター状態のように、何をやっても自分にダメージは返ってこないということなんだろうか。でもマリオではスター状態には必ず終わりがある。現実にもその日は近いんじゃないかと思う。

皮肉な話だけど、ある意味ここまで酷い状況が続いたからこそ、現状を変えるためには行動に起こさなければと続々と立ち上がる人が誕生したではないかと思えた。先日『町山智浩のアメリカの今を知るテレビ』でも放送されていたけれど、6日に投開票が行われた中間選挙には若い女性やイスラム系、ネイティブ・アメリカン、LGBTなど多様性に富んだ立候補者が多かった。特にムーアも注目していたアレクサンドリア・オカシオコルテス候補はアメリカ史上最年少の女性下院議員でまだ29歳。ハツラツとした雰囲気の美人さんで、1年前までレストランのウェートレスをしていたとのこと。今回見事当選を果たして私もとても嬉しく思った。まさに絶望から生まれた希望だといえるのではないかと思う。

高校での銃乱射事件を受けての銃規制強化のデモにより明るみになった共和党議員へのNRA(全米ライフル協会)からの支持や多大な献金。そして低賃金に加え健康保険料の倍増という教師を追い詰めるような不当な労働状況が、公立学校の教員たちのストライキにより知れ渡ったことも描かれる。もう十分に膿は出始めている。これ以上隠蔽したりごまかしたりはぐらかしたりして傷口を無理やり塞ごうとしたところで、バイ菌だらけの汚い手で触れては逆効果だろう。早めに消毒をしなければ化膿してやがて血が流れることにもなりかねない。

これもまた町山さんの番組で過去に観たけれど、何度見ても胸に迫るのが銃規制を求める「我らの命のための行進」でパークランドの高校生エマ・ゴンザレスさんが壇上で訴えるスピーチと黙祷だ。本当に見るたびに目頭が熱くなってしまう。身近な友人や同じクラスで勉強をしていた人たちが、ある日突然いなくなってしまうなんて状況はめったに合うことはない。実際に体験したものにしかわからないことや気持ちがある。よく「人の気持ちになって考えろ!」と人は言うけれど、結局はその人の立場に立たないと気持ちなんてわからない。超能力者じゃあるまいし。でも彼女の言葉からは心からの痛みや悲しみ、そして祈りが伝わってくる。人の気持ちになって考えるという頭の中での行為ではく、ダイレクトに心の中に響いてくるものがある。17歳の少女の訴えにトランプは「教師に銃を持たせたらいい」なんてアホみたいな発言をしていた。精神的に大人なのはどちらなのか一目瞭然。自分の言ってることがよくわかっていないんだろうか。

人間だから失敗することはある。でも1度失敗をしたことを2度繰り返さないよう学び、原因と対策を考える。歴史は失敗の前例の宝庫だ。だから歴史を学べば同じような過ちを繰り返す前に食い止めることができる。このドキュメンタリーもそんな役割を担っていると思う。この映画の中での出来事が、自分の身にも降りかかってきた時どうすればいいのか。やっぱり行動に移さないと変化は起きないのだと感じた。行動に移すことはどれだけエネルギーと勇気と精神的な負担のいることだろうと思う。必ずしもその行動が多くの人に受け入れられるとは限らないし、確実に批判も受けるだろう。でも、この映画の中で戦いに挑むマイノリティの人々を見て、これからどんどん良い変化が起きそうな予感も感じられた。いま是非観て欲しいオススメの映画です。

 

パンフレット

映画「華氏119」パンフレット
22ページで700円。作品紹介、ストーリー、プロダクション・ノートなどの基本情報から、マイケル・ムーアのインタビュー、そして映画評論家の町山智浩さんのコラムがあります!テキスト量も多めで、読みながら映画を振り返るのに十分な内容。町山さんのコラムが入ってる時点で間違いなく買い。

マイケル・ムーア監督作品

世界一の自動車工場GMの合理化政策によるリストラ問題に立ち向かった、ムーアのドキュメンタリー作家デビュー作品。

コロンバイン高校銃乱射事件や、ミシガン州で起きた6歳児の発砲事件を軸に、アメリカ人はなぜ銃を捨てられないのか?アメリカン人の抱える銃問題を探る。

ブッシュ大統領を徹底批判したドキュメンタリー。ブッシュは大統領に相応しいのか?経歴や言動から暴いていく。

先進国で唯一国民皆保険制度のない国アメリカの、医療保険制度が抱える問題に切り込んでいく。

アメリカを良くしていくためのヒントを世界各国から略奪する旅に出る!なぜ他の国に出来て自分の国では出来ないのか?日本人から見ても考えさせられる内容。