退屈から抜け出すための映画

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映画「負け犬の美学」(ネタバレあり)

「負け犬の美学」

映画「負け犬の美学」
(C)2016 - UNITE DE PRODUCTION - EUROPACORP

作品データ

公開:2017年/フランス
原題:Sparring
監督:サミュエル・ジュイ
製作:ブリュノ・ナオン
脚本:サミュエル・ジュイ、クレマン・ルシエ、ジェレミー・グエズ
撮影:ロマン・カルカナッド
美術:フレデリク・ドゥブレ
衣装:アリス・カンブルナ
編集:ティナ・バズ
音楽:オリビア・メリラティ
出演:マチュー・カソビッツ、オリビア・メリラティ、ソレイマヌ・ムバイエ、ビリー・ブレイン、トミー・ルコント、ライズ・セイレム、アリ・ラビディ、ダビド・サラシーノ、イブ・アフォンソ、アミール・エル・カセム、アルバン・ルノワール

概要・あらすじ

最盛期を過ぎた40代のプロボクサー、スティーブ。彼は愛する家族のため、そして自分自身の引き際のために、欧州チャンピオンの練習相手に立候補するが……。(映画.comより抜粋)

 

感想

新宿シネマカリテにて鑑賞してきました。負け続きで落ち目のボクサーであるお父ちゃんが、誰もが敬遠するスパーリングのパートナーに志願し、半ば無理やりに雇ってもらう。愛する家族の生活のため、そして愛する娘にピアノを買ってあげるために、日々ボコボコにされながらも何度も立ち上がり耐え抜く。その頑張りの末、やがて最後のチャンスが舞い込んで・・・。というお話。

監督と脚本を務めるのは、これが長編映画初監督であるフランス出身のサミュエル・ジュイ。舞台俳優としてキャリアをスタートさせ、これまで数多くのテレビ映画などに出演している。フランス人は俳優から監督業に進出するという例が多い。かつてフランスの映画監督であり、俳優であり、プロデューサーだったクロード・ベリは生前「映画監督になりたければ俳優になればいい」と言って自らその通りの道を進んでいきました。それにならってか俳優から監督業に挑戦することは、フランスでは自然なことのようです。日本人の俳優には少ない傾向ですね。

まず、映画の内容に関係ないけどツッコミを入れたいのが『負け犬の美学』というこの邦題・・・。原題は「スパーリング(スパーリングパートナー)」と、映画の内容からシンプルにつけられているのに対し、どうして邦題はこうも捻くれたタイトルになってしまったの?「負け犬」というワードも酷いし、別に主人公から「美学」とかそういう思想が感じられるわけでもない。なんだかちょっと見下すようなそんなニュアンスも感じ取れてなんか嫌な感じがしてしまったんだよなぁ。「負け犬」とか「負け組」とか「勝ち組」とか、人に対してそういう風に呼称するのってすごく嫌だなぁと思うし、そもそも定義がよく分からないよ〜。「人生を踊れ!」ってキャッチコピーもよく分からない。そういう映画でした?私はこの映画から”人生を踊れ!”というメッセージは感じられなかったなぁ。私が受け取ったメッセージは”お金のために痛みに耐えろ!”ですかね。

「負け組」とか「勝ち組」という呼び方は嫌いだけど、もちろんスポーツに勝負は付きもの。勝つ人もいれば負ける人もいる。この主人公のスティーブ(マチュー・カソビッツ)は48戦13勝3分32敗という「さすがにもうやめた方が・・・」と思わざるを得ないほどの見事な負けっぷり。しかも年齢が既に40代も半ばに差し掛かっている。体力勝負のスポーツ界、ましてやボクシングでは下手したら死の危険だってある。それでも「打たれ強さだけが長所」という理由でずっと続けてきた。その精神的な打たれ強さゆえ、いくら負けても周囲に馬鹿にされても悔し〜〜!といった負の感情や悲壮感をまったく見せない。肉体的にも打たれまくって顔や体はボロボロ。朝起きれば顔のかさぶたが枕に張り付き、おしっこをすれば真っ赤な血尿が出るなど、見てるこっちの体が痛くなってくる。あぁ、ボクサーはこんな生活が日常的なんだろうなぁと思わせる描写が細かく描かれる。

 

スティーブにはちょっとヤンキー風な美人の奥さん(オリヴィア・メリラティ)と、超かわいい娘(ビリー・ブレイン)と、超かわいいまだ幼い息子がいる。一家4人を養っていかなきゃならないスティーブは、奥さんから50戦したら引退せよ!と迫られている。超かわいい娘はボクサーであるお父さんを誇りに思っていて、試合後帰宅すると「今日の試合どうだった!?」とキラキラした目で聞いてくるのがまた辛い。実は映画を観る前、ポスターでこの子の写真を見たときに「まぁかわいい男の子だなぁ」なんて思っていた私・・・。どうも失礼しました。この可愛いお嬢さんはピアノを習っていて、パリ国立高等音楽院へ入学するという夢がある。その夢を叶えてあげるためにピアノを買ってあげたい!と思うスティーブ。夢を成し遂げられず、いつまでも中途半端でふらふらした状態の自分のようにはなって欲しくないという気持ちも強いんだろうなと思う。

私もつい、小さい頃のことを思い出した。ピアノを習っていた小学生の頃、周囲の友達もみんな習っていたんだけど、うちにだけピアノがなかった。団地に住んでいる子の家でもみんなピアノがあったのに、ピアノを習っていてピアノが家にないのは本っ当にうちくらいだった!どうしても買ってもらえなくて、お願いして最終的にやっと安物の電子ピアノが与えられました。結局すぐにピアノの習い事も嫌になってしまって辞めちゃいましたけど。家で練習出来るか出来ないかは結構大きいと思う。

チャンピオンのタレク(ソレイマヌ・ムバイエ)が試合のためのスパーリングパートナーを募集してると知ったスティーブンは、娘のピアノ購入資金のために志願!スパーリングパートナーは試合以上に過酷で大きな危険が伴うらしい。なぜかというと、試合では致命的な打撃を受ける前にレフェリーが試合を止めるけど、スパーリングパートナーは、試合を控えて闘争心がみなぎり荒れ狂った男を1ヶ月もの間、毎日相手にしなければいけないからだとサミュエル・ジュイ監督が語っている。練習場に着くと、他に自信たっぷりな若者のスパーリングパートナーが2人いて、今までの戦績を得意げにアピールする。この状況で自己紹介しなければならないスティーブ。あぁ、私だったら恥ずかしくて逃げ出したくなる。おまけに体つきも全然違う。スティーブを演じるマチュー・カソヴィッツは多少筋肉は付いているものの他のボクサーと比べたら全然で、もっと鍛え上げてこいよ!と思わざるを得ない。そのくせ背中や腕にはいくつも大きなタトゥーが彫ってあるのが、なんかかっこ悪い。リングに上がってスパーリングを開始するも、相手はチャンピオンだからボコボコにされて終わるだけだし、「なんだこいつは!」と言われてしまう始末。

この主人公、本当にボクシングで成功したかったんだろうか?打たれ強いというところはよぉぉぉく分かるのだけど、ボクシングの練習や体力作りに関して努力が感じられるようなシーンがない。それなのに、スパーリングパートナーを含めたタレク陣営の作戦会議でトレーナーが考える作戦に堂々と異議を唱えたり、タレクにアドバイスをするのはなぜか。確かにスティーブは自分は”持ってない”ことを完全に自覚していて、その中で自分なりに出来ることを仕事として遂行しているといった割り切りがあるように感じる。ボクシング好きなボクシング下手であるスティーブは、下手だからこそ熱心にボクシングを研究していたのかもしれない。例えるならば、研究熱心で的確な批評をする映画評論家が、実際に映画を監督して作ってみたらどえらいゴミ映画ができてしまったみたいなもんだろうか。(注:ただの例えなので特定の人物がいるわけではありません。)それでもやっぱり48戦32敗のへっぽこボクサーのアドバイスを、チャンピオンが真剣に耳を貸すとはあまり思えない。そもそもチャンピオンを目の前にして自分の意見を言うなんて、かなり思い上がっているし、確実にレベルが上の人じゃないと普通だったら恥ずかしくて出来ないよ!その昔人気があったが今は落ちぶれてしまった元チャンピオン(『レスラー』のミッキーロークみたいに)とかいうわけでもないし。その辺りの説得力、もうちょい欲しかったなぁ。

 

最初は気が進まなかった「どうしても練習試合が見たい!」という娘の願いを叶えてあげるも、娘が見てる前で対戦相手に馬鹿にされ、心ないヤジが飛び、ボコボコにやられるダサい姿を晒す羽目になる。居たたまれない気分になった娘は思わず会場から飛び出してしまう。今まであんなにお父さんっこだったのに、急に冷たくなる娘・・・。娘のピアノを買うためにお父ちゃん殴られているのに!これはかなり切ない。そんなこんなで練習試合も終わり、スパーリングの役目も無事に終了することになる。そんな時にタレクから前座の試合に出るはずだった選手が出られなくなったから、代わりに出ないかと持ちかけられオファーを受けることに。妻と引退の約束をした50試合目の最後の試合になるからなんとしても勝つ!!と気合を入れて臨み、試合は勝ったのかどうかはっきりとは見せないけれど、どうやら勝ったらしい。しかし、せっかくの最後の試合なのに娘見に来なかったことに私は驚いたよ・・・。(これは映画冒頭とつながってくるシーンだってことは分かるんですけどね。)

エンディングで「スティーブンの32敗なんてまだまだ甘いぜ〜」と言わんばかりのリアルに負け続きのボクサーたちの映像が流れるんだけど、ここが一番面白かった(笑)負けの数が3桁の人とかもいて、なんで続けられているんだかもう意味がわからない。この人たちのドキュメンタリーの方が興味あるなぁ。

そういえば、カメラワークで結構気になる箇所があった。なぜだか前方に余計なものが入り込んでたりして、重要な最も見たいと思う部分が隠れてるショットがよく目に付いたんです。観てるものからしてみればかなりストレスがたまる映像。監督曰く、どのカットもまるで、実際にそれが起きた瞬間を切り取ったものであるような印象、そして俳優たちの気付かないところで撮影されたという印象を与えたかったそう。確かに、試合のシーンでは観客席から見ているような感じで撮っているんだろうな〜とは思った。でも、もうちょっと対象の人と、それを遮る邪魔な存在が被らないようにしてもらえたらモヤモヤすることなく見られてよかったなぁ〜なんて思ったりしましたよ。

役者さんの紹介をすると、主役のスティーブンを演じていたのは日本でも大ヒットした『アメリ』でアメリと恋に落ちるニノ役を演じていたマチュー・カソビッツ!ボクシングシーンは振り付けをつけずに本気で打ち合いをしていたとのこと。だから映画の中での顔の傷はメイクじゃなくて本物なんだそう。チャンピオンのタレク役には、WBA世界スーパーライト級王者のソレイマヌ・ムバイエ(2017年時点で総試合数47のうち4敗)を起用。映画出演は今回が初。スティーブンの奥さん役は、この映画の音楽も担当しているオリヴィア・メリラティ。ダン・レヴィーと共にThe Døというエレクトロ・ポップ・デュオを結成し、2015年にサマソニにも出演しています。

 

パンフレット

映画「負け犬の美学」パンフレット
22ページで780円。ストーリー説明も丁寧だし、マチュー・カソビッツやソレイマヌ・ムバイエ、監督のサミュエル・ジュイのインタビューの文面がボリューム多めなのもいい。さらに私も(エンディングの曲以外は)大好きな安藤サクラさん主演のボクシング映画『100円の恋』で脚本を手がけた足立紳さんのエッセイ、そしてスポーツライターの渋谷淳さんが紹介するスティーブの姿と重なる日本人ボクサーについてのエッセイが興味深かった。パンフレットの内容は結構濃いめ。

おススメのボクシング映画

ボクシング映画の金字塔。

デニーロが役作りのため体重を27kg増量した話が有名。

ラストは涙なくしては見られない。