退屈から抜け出すための映画

観た映画の感想をだらだらと書いているだけのブログです。

映画「シュガーマン 奇跡に愛された男」-愛と情熱が詰まった最高の音楽ドキュメンタリー。-(ネタバレあり)

「シュガーマン 奇跡に愛された男」

シュガーマン 奇跡に愛された男 [Blu-ray]

作品データ

公開:2012年/スウェーデン・イギリス

原題:Searching for Sugar Man

監督:マリク・ベンジェルール

製作:サイモン・チン

製作総指揮:ジョン・バトセック

出演:ロドリゲス

概要

1970年代前半に2枚のレコードを出したがアメリカでは全く売れず、音楽業界から姿を消したロドリゲス。その頃、南アフリカでは反アパルトヘイトの機運が高まる中、彼の曲が若者たちの胸に響き、革命のシンボルとなっていた。彼は噂通り自殺をしてしまったのか?南アフリカで売り上げたお金の行方は?彼にまつわる様々な謎を調査していくうちに、奇跡的な出来事が起こる。

解説・感想

この映画を観てから「シュガーマーン♪」という曲が頭から離れない。一度聴いたら耳に残る哀愁漂うメロディ。この映画で初めてこの曲を歌うロドリゲスというミュージシャンを知った。そりゃそーだ。なんてったってアメリカでもまったくの無名だったのだから。

ロドリゲスのLPは南アフリカでは大ヒット。しかし調べようにも彼の情報は皆無。おまけにステージに立った彼が拳銃自殺をしたという噂まである(なんだか「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」みたいだ。”〜〜マン”といい”奇跡”といいなんたる偶然。)。このドキュメンタリーは、そんな謎のミュージシャン、ロドリゲスの謎に迫っていく作品である。

 

監督を務めたのはスウェーデンの映画監督マリク・ベンジェルール。本作品ではアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した。しかし残念なことに、本作が公開された2年後、36歳の若さで亡くなっている。死因はうつ病による自殺。まったく狙ったわけではなく、偶然今この記事を書き始めてから本日9月14日がマリク・ベンジェルールの誕生日ということを知った(ちなみに、上戸彩ちゃんも今日が誕生日です。昔握手会に行ったな〜)。というわけで何としても本日中にブログをアップできるように仕事の遅い私が超必死で書いています。

1968年、アメリカのオレゴン州デトロイトのある店でロドリゲスが歌っているところを、のちにロドリゲスの1枚目のレコード「コールド・ファクト」の共同プロデュサートを担当することになるマイク・セオドアとデニス・コフィーがスカウト。すごいやつを見つけた!と大ヒットを確信していたが、アメリカでは誰も彼の曲を聴くものはおらず、歌詞を聴いて惚れ込んだアーティストはボブ・ディランだけだったと話す(それはそれですごい)。

1970年代前半の音楽業界といえば、激動の時期だったように思う。1970年にビートルズが解散。同じく70年にジミヘン、ジャニス・ジョプリン、71年にジム・モリソンなど人気のミュージシャンが相次いで亡くなった。アメリカでは、シンガー・ソングライターブームが訪れ、ジェームス・テイラーの「ファイア・アンド・レイン」という曲や、彼のピアニストをつとめていたキャロル・キングの「つづれおり」がヒットしていた。このシンガー・ソングライターブームに、ロドリゲスが乗っかることができなかったのはなんでなんだろう。時代に合っていなかったとは思えない。そもそも知られていないということは、プロモーションにまったく力が入れられていないような気もする・・・。

1970年代のデトロイトは企業の倒産や大量リストラにより浮浪者が市街地に溢れ、治安が悪化していたという(映画「ロボコップ」のモデルとなっている)。ロドリゲスはそんな荒廃した街の中で、近所の風景や街を歩く人たちなど身近なところからインスピレーションを受け、それを歌詞にしていた。「失業しちまった。クリスマスの2週間前に。」と歌う「コーズ」という曲の歌詞が、皮肉にも現実になってしまったというエピソードに「そんなことってあるんかい!」と、悲しすぎて胸が痛みました。


Rodriguez - Cause

南アフリカにロドリゲスの曲がどうやって辿り着いたのかは謎だけれど、レコードもなかなか手に入れづらいため、テープで一気に広まったという。ドラッグについての内容の歌詞が問題となり、レコードは検閲文書保管庫に保管されて放送禁止とされていたのだ。そういった理由から、ほとんどの音源の入手方法が正規ルートではなかったため、アメリカやロドリゲス本人にまで人気が伝わることがなかったのだろう。なんとも気の毒な話!

 

当時の南アフリカは、アパルトヘイト(白人と非白人の諸関係を規定する人種隔離政策のこと)のため混乱が起きていた。規制、抑圧、差別が激しい中、反権力・抗議・怒り・自由・解放などを歌ったがロドリゲスの音楽が若者の心にはまり、革命のシンボルとなったようだ。インタビューで、当時大統領だったピーター・ウィレム・ボータの事を「極悪人だよ。テレビでこんなポーズを。」と言って人差し指を立てるが、その姿が現在のアメリカ大統領のドナルド・トランプそっくりでゾワッとしてしまった

アフリカで売り上げたロドリゲスのレコードの印税のルートを辿り、調査から浮かび上がってきた人物に次々とインタビューを敢行していくが、その中の1人であるサセックス・レコーズの当時のオーナーで、クラレンスという黒人の男が、まぁーなんとも胡散臭くって。印税の流れについて質問すると「ロドリゲスとカネのどっちが大事なんだ!?」とか言い出す。「仕事と私どっちが大事なの?」と言い出すめんどくさい女か!実際海賊版も多かっただろうし、彼の言っていることは事実もあるのかもしれないが、とにかく態度が胸糞悪い!しかし、そんなイヤ〜な気分を一気に吹き飛ばすある事実が判明する。なんと・・・ロドリゲスが生きていたのだ

そしてここから一気に展開が進み、ロドリゲス本人と繋がることに成功!現在のロドリゲスは音楽の世界からは離れ、建設現場などで日雇い労働をしてきたという(肉体労働の現場にわざわざスーツで出勤してくるというからやはり感覚が普通じゃない。)。しかも真面目で誰よりも働いていたそうだ。レコードが売れなかったことに対しても「まぁそういう世界だし」と超冷静。どうしたらそう上手に割り切ることが出来るんだろう!私にはとてもできそうにない!そう思ったけど、この人の生き方を見ていたらどんな環境でも自分次第で前向きに生きていけるんだって気持ちになってきた。めちゃくちゃ説得力がある。いつでも労働者階級や弱い立場の者の味方でいて、貧しくてお金がなくても心が豊かなんて、まるでブッダみたいな人!!ミュージシャンという肩書きがなくとも、生き方や存在自体がかっこいい。どんな仕事をしていても芸術家でいられる。そんな彼だからこそ、いつまでも人の心を捉え、詳しく知りたい気持ちを掻き立てたのではないかと思う。

念願のツアーを成功させ(それもさらっとやり遂げるところがすごい。)、音楽業界に復帰するかと思いきや、また元の肉体労働の生活に戻っていく。本人にとってあのライヴは本当に特別な出来事だったのだと、割り切っていたのかもしれない。物への執着がなく質素で平凡な暮らしをしているが、現代ではそういう暮らしする人をカッコつけて「ミニマリスト」と呼んだりする。でもロドリゲスは「ミニマリスト」とは圧倒的に違う。彼は自分が贅沢をするくらいなら家族や友人、恵まれない者たちに分け与えたいと思っているからだろう。

映画の後半は徐々に高揚感が高まり、最後には大きな感動に包まれました。ロドリゲス本人はもちろん、彼に魅了された様々な人たちすべてが魅力的で、心からの愛と情熱を感じました。きっとこれからも多くの人々の救いになるような、素晴らしいドキュメンタリー作品です。ぜひぜひ観て欲しい。

 

話は変わりますが、まったく知らなかった人物に、たった1時間半で夢中になることが出来てしまう映画や、テレビやインターネットなどの媒体は本当に素晴らしいと思う。もちろん、その逆の効果を生み出すこともある。それくらいメディアの力は大きい。

でも、良くも悪くもメディアにまったく取り上げられない、誰にも注目を浴びないことは1番残酷なことではないだろうか。作品を作って、それが決して悪いものではないというのに、月並みなものや、中身のない見た目だけのものの方がもてはやされていたらどんな気持ちがするだろう。

実際、テレビに関して”最近面白くないね”とか、音楽番組を見て”昔みたいな耳に残る名曲もないよね”とかよく言われている。でもテレビに出ていないけど、素晴らしい才能を持った人や面白いことをしている人は確実にいる。インターネットはそういった人たちにチャンスを与えてくれただろう。でも、いまの世の中に漂う"それが本当に良いと思っているのか、自分が好きなのかに関係なく、みんなが好きなもの、人気があるものに群がる傾向"は変わっていくのだろうか。

なんでもランキング上位のものが良いとされる。もちろん本当に良いものもあるけど、ランキング圏外だからといって決して劣っているわけではない。ランキング圏外でも素晴らしいものはたくさんあることを私は知ってる。だからこそ私は人気や流行に関係なく、自分が面白い、素晴らしいと思った映画(たまに映画以外も)をこのブログで紹介していきたいと思います。そんな感じでこれからもどうぞよろしくお願いします。