退屈から抜け出すための映画

観た映画の感想をだらだらと書いているだけのブログです。

映画「カメラを止めるな!」大人たちが肩書きや立場を忘れて夢中になる!(ネタバレあり)

「カメラを止めるな!」

カメラを止めるな!

作品について

公開:2017年/日本

監督:上田慎一郎

出演:濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長屋和彰、細井学、市原洋、山﨑俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子、吉田美紀、合田純奈、浅森咲希奈、秋山ゆずき

あらすじ

とある廃墟にてゾンビ映画の撮影中、俳優の演技に納得いかない監督は俳優に対し激しい怒りをぶつける。雰囲気が悪くなった現場はそのまま休憩に入るが、廃墟の不気味さも相まって何やら不穏な雰囲気。不安は的中し、突然スタッフがゾンビ化して現れた!俳優やスタッフが次々と犠牲になる中、リアリティーにこだわる監督は撮影を続行し、カメラを回し続ける。

 

感想など

月曜日に家から近いTOHOシネマズで観てきました。平日なのに満席!!この映画館で平日に満席なんてものすごく珍しいです(たまに貸切状態のこともある)。その人気ぶりを実感しました。

町山智浩さんがラジオで紹介していたことや、口コミでの評判、国内から海外まで数々の映画賞を受賞したニュースなどを見ていて気になっていた作品。だけど正直、「本当にそんなに面白いのか?」と疑いにかかっていたこともありました。そんな中、家の近くのTOHOシネマズで期間限定上映が決まり、「ラッキー!だったら観に行ってみようか」とさっそく足を運んだという経緯です。

「ネタバレ厳禁!!」と強調されているこの作品ですが、そう言われれば言われるほどに「ってことは普通じゃない何か仕掛けがあるんだろう。」と素直に見れずに勘ぐってしまい、ある程度の想像はついてしまったりすることもあるので、「ネタバレ厳禁!」と言い過ぎるのも逆効果ではないかなぁと思う今日この頃。この作品に関しては、宣伝で既に「2重構造」というヒントも明らかにされていたので「たぶん、最初に始まる劇は劇中劇なんだろう」という想像も軽くついてしまいます。

間の悪さやたどたどしい演技。ぐだぐだな展開。

まるでキョンシーみたいに腕を伸ばした若い男のゾンビが若い女性に迫っている。どうやらこの2人はカップルだったらしい。女優の演技がひどくて、監督がブチ切れ。一旦休憩を挟むことになり、ゾンビ役とその彼女役の俳優、そしてメイクさんの3人でしばらく会話。しかし、なんか変な感じ。妙な間が空いたり、すっごいどうでもいいような会話が始まったり、演技もたどたどしい。そんな中、突然ゾンビ化したスタッフが現れ逃げ惑う3人の様子を、水を得た魚のように「これだこれだー!」と監督はカメラを回し始める。よく見ると、同じ場所に録音担当の男もいるが、逃げるそぶりはまったく見せず普通に座っている。え、これ映っちゃいけないやつなんじゃないの?しばらくして「ちょっと・・・。」といった感じで中腰姿勢でドアから出て行こうとする録音マン。それを慌てて阻止しようとする監督だが、突き飛ばされて逃げられてしまう。皆が呆然とする中、監督は思いっきりカメラ目線で「撮影は続ける!カメラは止めない!」と宣言。

物語の冒頭はこんな感じで、ナニコレ感が半端ない。その後も、グダグダしながら話は進み、性格が豹変するメイクさんや、しばらく倒れたまま起きあがらないカメラや(これは演出かな、とも思えたけど)、しつこいほど長ったらしく続くシーン、都合よくある小道具と棒読みのセリフ、変なポーズで踊ってるゾンビなどなど、ひどい有様。それと、階段を上るシーンで必ず女優さんのお尻のドアップ(しかもホットパンツ)が映り続けるのも「私は何を見させられているんだろう」という気持ちにさせられました・・・(とはいえ、男性の皆さんにはサービスショット!)。 1シーン1カットのゾンビ映画という無謀な挑戦、そしていかにも素人が作った低予算映画としか思えないお粗末さ。2重構造とはいえ、これが本当に面白くなるのか?あれだけの評判を見ていても不安しかありませんでした。しかし、この短編映画が終わった後、本物のエンターテイメントは始まったのです。

 

 後半、このゾンビ映画を作るに至った経緯が描かれる

あるテレビ局にて、もろ大阪のおばちゃんといったプロデユーサーに「新しくゾンビチャンネルを作ることになったから、開局記念で1カットのスペシャルドラマつくてよー!しかも生中継でね!」と依頼される日暮。さっきまでゾンビ映画で監督役を演じていた男だ。困惑しながらも企画を受けることに。集められた俳優たちは、わがままで周りのことなんてお構いなしの自己中心人間ばかり。さっきまで完全に頭のネジのいかれた監督を見ていたからか、実際には俳優たちに振り回されっぱなしのお人好し監督だったというギャップに一気に好感度が急上昇。主演のアイドル女優の遠回しにイメージダウンに繋がる演出(ゲロNG)を削るようなお願いや「よろしくでーす」の一言でなんでも思い通りに済ましてしまう軽さ、ゾンビ役イケメン俳優のインテリぶった態度や、台詞合わせ中も酔っ払ってうとうとしてしまうアル中俳優、お腹が弱く神経過敏でめんどくさい録音マン役俳優、泣きわめく赤ちゃんを連れてくるメイク役の女優、その女優とやたら親しげで関係が怪しい監督役俳優。など「こういう人いるよね〜」とつい思ってしまう人物描写にとてもリアリティがあり、「あぁ、これじゃあ監督は大変だ・・・。」と同情の気持ちも生まれました。(これって実際の体験談なんだろうか。)

この監督には奥さんと娘が1人いて、奥さんは 元女優、娘も父親の血を受け継いでか監督志望で撮影現場で経験を積んでいるところ。この娘、いかにも映画好きといた様子で、いつも映画Tシャツを着ている。Tシャツのラインナップは「スカーフェイス」のアル・パチーノ、「タクシードライバー」のロバート・デニーロ、「シャイニング」のジャック・ニコルソン。そのくせ、ゾンビ映画にも出演することになるイケメン俳優にぞっこんで、「いやいやこういうタイプの女子はイケメン俳優よりマニア向け(だけど本物のマニアからしてみたらミーハーっぽい)風な俳優を好むんじゃないの?!」と思ったりもしました。あ、でもこの短編映画に出るって時点でそんな存在なのかな?

ゾンビ映画の撮影当日、メイク役と監督役の俳優が事故に遭い急遽出演ができなくなり(このざまあみろ感はんぱない)、監督役を監督、メイク役を監督の奥さんが急遽務めることになる。これにてこれから始まる最高の演出へのお膳立てはすべて整った!撮影までのドタバタと撮影裏でのドタバタ、そしてそれがカメラの中ですべてミックスされて清々しいまでに気持ちの良い笑いへと昇華されていく。「なるほど!」「そうだったのか!」と表と裏が繋がっていくワクワク感。本当に素直に単純に面白くて、誰が見ても楽しめる作品になっていると思いました。そして、今までまとまりのなかった俳優陣たちも協力し、裏方のスタッフもフォローしあってみんなで1つの作品を作り上げる姿はとても感動的。これぞエンターテイメント!上田監督は「大の大人がキャッキャするシチュエーションが好き」とラジオで言っていましたが、大人たちが自分の肩書きや立場などなにも気にせず、1つのゴールに向かって夢中になっている姿に非常によく反映されていると思います。画面から伝わる熱量から高揚感が生まれ、最高に楽しめました!

「カメラを止めるな!」パクリ騒動

「カメラを止めるな!」は監督&俳優養成スクール・ENBUゼミナールの《シネマプロジェクト》第7弾作品。2011年に初演された劇団PEACEの舞台作品「GHOST IN THE BOX!」を見て(前半は殺人サスペンス、後半は舞台裏のドタバタを描いた二重構造作品)、構想に着想を得たとのこと。これが今パクリ騒動に発展していますが、”2015年に上田監督が劇団員を通して映画化の話を持ちかける→舞台の脚本執筆者に映画用脚本を依頼→頓挫→2016年やはり映画化したい旨を伝え、脚本は大幅に書き直しオリジナルストーリーとなった。”という経緯らしいです。あくまでも「インスパイアされた」という認識でいるとのこと。

結局は原案としてクレジットすることになりましたが、元劇団PEACE主宰の和田氏は原作として認めて欲しいとのことでこじれているらしいです。映画って様々な文化的要素に影響を受けあって作られているものじゃないですか(いや、映画じゃなくても創作物全般的に)。映画好きならどうしても新しい映画を観るときに「あぁーこのシーンはあの映画に似ているな。」「この演出はあの映画から取ってきてるな。」なんて思うことよくあります。タランティーノなんかパクリ魔(オマージュともいう)で有名だし、気持ちいいくらい堂々と明言までしています。もちろん、どの程度類似点があるかにもよるので、盗作とかパクリとかは本当に線引きが難しい問題。パクリと言われていた演出が、いつかは常套的な演出になるという日が来ることもあるだろうし。ファッション業界なんて酷いもんですけど、それが堂々と黙認されているし、奇妙な世の中ですね。とはいえ、結局は「実際に基になった舞台を見ていない私にはなんとも言えない」のひと言に尽きますが・・・。

 

上田監督の痛々しさと熱量

今作で本当の監督を務めた上田 慎一郎さんについて色々調べたところ、とても面白い人で興味を持ちました。映画を撮ることに関しては学校で勉強したというわけではなく、中学の時から好きで映画を撮影していたとのことで、完全に独学で続けてきたそうです。特に面白いなと思ったエピソードは、Wikipediaに記載されている下記の内容。

ハリウッドを目指すために大阪府内の英語の専門学校に通うも馴染む事が出来ず半年で退学する。20歳頃からは一度映画制作から離れ、ヒッチハイクで上京するものの詐欺に遇ったり、SF小説の自費出版をしたりするなどして借金を複数回抱え、ホームレス生活も経験する。

完全に「この人普通じゃない。頭おかしい。」感の半端なさ、だけど妙に親近感が湧いてしまうのはなんでだろうか。やっぱり「自分の好きなことで何かがやりたい!そして、とにかくすごいことを成し遂げたい!」みたいな若さゆえの痛々しさと、暴走と熱量がそう感じさせるのかなぁ。何でも上手に世渡りしていける人より、諦めきれない夢や目標を前に、もがき苦しんで、苦しんでいるのに結局上手くいかなくて、それでも止められない、そんな人についつい惹かれてしまうところがあります・・・。

今作は長編監督作としては「お米とおっぱい。」に次ぐ2作目にあたります。上田監督は他にも短編を10本以上製作されていますが、DVDなど出ていないのでどれも観るのは難しい状況。「カメラを止めるな!」のヒットを機に観れる環境が整ってくれたら嬉しいです。ところで、上田監督の顔を初めて見た時にすごい既視感があったんですよね。それも親近感を感じた要因のような気がするんですが、なんか誰かに似てるな〜とずっと感じていて。例えて言うならクドカン×斉藤和義÷2が一番しっくりきたんですが、どうでしょう・・・。 

リアリティを体現する俳優達

俳優陣はオーディションにより選ばれた「不器用な人」たち。素人同然の彼らは演技もままならないため、それぞれに合った役を上田監督が俳優たちに当て書きで執筆されました。そのためか役名も俳優たちの名前をもじった名前になっています。この配役が絶妙で、それぞれがぴったり役にはまっているためか、みんな初めて見る顔なのに出演者全員の顔がいつまでも印象に残り続けていました。キャラクターの描き方のうまさと、彼らの個性が見事にマッチングしていた結果だと思います。また、どの俳優さんも身近にいそうな親近感溢れてる人たちで感情移入しやすかったところも魅力的。イケメンプロデューサーなんて出てきた瞬間、あ、私の苦手なタイプの人!!!って瞬時に察知しました(笑)

映画はこうして作られる。撮影裏が見られる所も魅力。

そんな感じでとにかく爆笑できて、最高に楽しめるエンターテイメント作品でした。撮影風景やメイキングを見るのが個人的にとても好きなので、撮影裏を描いている場面は、こうやって映画は作られているんだ!と勉強になる部分もあって2倍、3倍とおいしかった。顔の綺麗な人気の俳優さんたちばかり集めたドラマではなく、名前も顔も知らない人たちしか出ていないドラマでもこんなに人を楽しませる作品を作れるんだということを証明した、その出来事こそが非常に意味のあることだと思います。今後もっとこの作品のような熱量のある作品が邦画にも増えていってほしいなと思っていますし、この思いはきっと伝染して良い方向へ向かうだろうと思いました。