退屈から抜け出すための映画

観た映画の感想をだらだらと書いているだけのブログです。

映画「希望のかなた」(ネタバレあり)

「希望かなた」 監督・製作・脚本:アキ・カウリスマキ

希望のかなた [Blu-ray]希望のかなた [DVD]

随分と更新に間が空いてしまいましたが、また映画の紹介をしていこうと思います!

今回は7月4日にDVD・Blu-rayが発売されました「希望のかなた」をご紹介します。

あらすじ

シリア難民の青年カーリドが、フィンランドのヘルシンキに密航してたどり着く。

難民申請での度重なる聞き取りに、まっすぐと力強い瞳で答えるカーリド。

しかし理不尽な理由で申請は却下され、シリアに送還されることが決まってしまった。

送還される当日の朝、収容施設のスタッフの助けにより、逃げることに成功する。

 

一方、鍵と結婚指輪と妻を残し、家を出て行ってしまった中年オヤジのヴィクストロム。

これまでの商売をたたみ、在庫をすべて売りはらったお金でカジノへ向かう。

ポーカーで勝利し手に入れた資金を元手にレストランのオーナーとなり、新たな人生を賭ける。

ある日、レストランのゴミ置場に居座るカーリドを見つけ、殴り合いになるも、

ヴィクストロムはカーリドを受け入れ、雇い入れることになるのだった。

 

 作品について

2017年公開 フィンランド

原題:TOIVON TUOLLA PUOLEN

ベルリン国際映画祭 銀熊賞(監督賞)を筆頭に、多数の賞を受賞。

撮影から編集まで全行程デジタルを一切介さずに製作されている。

 

難民3部作

前作「ル・アーブルの靴みがきに」続く難民3部作の2作目にあたる本作。

(元々は港町3部作になる予定でした。)

監督はこの作品を最後に「もう、疲れた・・・やめたい」と引退をほのめかす発言をしており、映画ファンに衝撃を与えました。

しかし「3作目はハッピーなコメディになるといい」との発言もしており、

恐らく引退発言は気分的なものだったのではないかと思います。

 

カウリスマキ監督は、これまでも立場の弱い者や貧しい人々を描いてきました。

とことん不運に見舞われる彼らが、最後には希望を持てるようなそんな作品たちが、

今作の「希望のかなた」に繋がっているような気がします。

難民に対して差別や攻撃をする人々、行政機関の事務的な対応、

そして見て見ぬ振りをし続ける私たちに対して「人間性はどうなってしまったのか?人間性がなければ私たちは一体何者なのだろうか。」と訴えています。 

 

2002年にニューヨーク映画祭にカウリスマキ監督が招かれた際、

同時多発テロの影響で同じく招待されていたイラン人のアッバス・キアロスタミ監督(カウリスマキ監督とは小津安二郎ファンつながり)のビザが発行されなかったということがありました。

この時、カウリスマキ監督は映画際の参加を拒否しています。

この一件からもカウリスマキ監督の不寛容を許さない徹底した性格が伺えます。

 

時代遅れなレストランとジミヘン

ヴィクストロムが初めてレストランを訪問した時、

店頭のメニューボードに「ニシンのステーキ 8マルッカ」とあります。

マルッカはフィンランドの旧通貨で、2002年からはユーロが使用されています。

この時点で時代遅れで、誰もそのことに気付かない従業員の無頓着さが分かり、ダメさ加減が伝わってきます・・・。

寿司屋に挑戦し、失敗した後にまたレストランに戻りますが、その後映し出されるメニューボードはきちんとユーロ表記になっています。

このちょっとした変化からも「希望」が感じられます。

 

また、レストランには大きなジミヘンの肖像画が飾られています。

なぜジミヘンなのか、本当の意味はわかりませんが、ジミヘンは

「力への愛に、愛の力が勝利した時、世界は平和を知る」

「愛国心を持つなら地球に持て。魂を国家に管理させるな!」

という名言を残しています。

映画のテーマ、そしてカウリスマキ監督が伝えたいことと一致しているのではないでしょうか。

緊張と緩和が混在するユーモア

 カウリスマキ監督の映画の特徴は、寡黙で無表情でユーモラスなところです。

明らかにおかしいのに、そこにいる人たちは表情一つ変えない。

それによって緊張と緩和が混在するおかしさを生み、つい笑ってしまうのです。

ツッコミ役がおらずみんながボケなので、ツッコミを入れながら観るのが楽しいポイントの一つだと思います。

 

今作では、”お寿司屋さん”のシーンが見所の一つです。

レストランの売り上げが芳しくないため、解決作としてなぜか寿司屋を始めます。

早速、寿司や日本に関する本を買い集め(紀伊国屋のブックカバーついてるのがあるぞ・・・)、半被姿で勉強するオーナーと従業員たち。

そして寿司屋をオープンするのですが、その後の展開は観た方が面白いので是非観てください。

 

ちなみにカウリスマキ監督は来日時に、渋谷のいきつけのお寿司屋さんによく行くそうで、

そのお寿司屋さんを題材に映画化を試みたこともあるそうです。

恐らく今作の寿司屋との共通点は”寿司屋である”ということ以外にないと思いますが・・・。

 

サウンドトラック

カウリスマキ監督の作品の特徴でもう1つ大事な要素が音楽です。

残念ながら今作のサウンドトラックは販売されておらず、

キャンペーンのプレゼント企画で非売品のCDを手に入れるしか方法がありませんでした。

(私も手に入れられていません!)

カウリスマキ映画の中の音楽はただのBGMではなく、その場で演奏している音楽が使われます。

決まった音しか流れない録音されたデジタルな音とは違い、場面の一肖像となって物語の中で必要不可欠な存在になっています。

ロック、タンゴ、ブルース、ムード歌謡などジャンルは様々。ときに悲観的な選曲は、メロドラマのような雰囲気を構築し、哀愁を誘います。

 


Dumari ja Spuget: SKULAA TAI DELAA (TOIVON TUOLLA PUOLEN)

 

DVD・Blu-ray 特典内容

◆オリジナル予告/日本版予告

◆劇中音楽ライブシーン(フルバージョン)

  • MIDNIGHT MAN
  • TAMA MAA
  • SKULAA TAI DELAA
  • KAIPUUNI TANGO

◆スチール・ギャラリー

◆ビジュアル・パンフレット (※劇場パンフレットを静止画で一部再録)

  • アキ・カウリスマキ監督からのメッセージ
  • イントロダクション
  • ものがたり
  • ぶっきらぼうなスタイル 宇田川幸洋(映画評論家)
  • 運命をも変える、小さな優しさ 安田菜津紀(フォトジャーナリスト)
  • カーリドがたどった旅路
  • 「希望のかなた」にみる難民問題にまつわるキーワード
  • アキ・カウリスマキ監督 インタビュー
  • 主演 シェルワン・ハジ インタビュー
  • スタッフ・キャスト
  • アキ・カウリスマキ監督のヘルシンキを探して 遠藤悦郎(グラフィックデザイナー・在フィンランド)
  • クレジット

おすすめの関連本

実際難民に関しては、人の善意だけでは解決しない複雑な問題が山積しています。
こちらの本では、難民に関する歴史や経緯、受け入れ国側が担う負担や民間人の厳しい反応、日本の対応など、現実的な面から難民問題を知ることができます。

 

私も大好きな、クレイジージャーニーにも出演されたことがある戦場ジャーナリスト桜木武史さんの、シリア内戦の実情を書かれた本です。
桜木さんは日本にいる時にトラックの運転手をして資金を稼ぎ、そのお金で戦場に向かっているとのことで、その情熱は計り知れません。死と隣り合わせの世界で生きる彼らシリア人の声を、この本から聞くことができます。

 

まとめ

難民を受け入れる側のちょっとした優しさ、寛容さを願った作品です。

無駄な説明を一切省いた”ミニマル”さ。

だからこそ言葉や表情、動きのひとつひとつが印象に残ります。

他のコメディとは一味違う、カウリスマキ監督流のユーモアに、思わずつっこみながら観てしまうでしょう。

老若男女すべての人にオススメ!